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4.2 - ファンタオレンジと秋の空(2)

午前中の電話で納期の督促がいっぱい入ってきたから、現場に生産至急品の催促をしに行かなければいけない。この仕事がまためんどくさい。頼んだらすぐにできるものでもないから、客先への納期から逆算して各工程の係長に、いつまでにこれを作ってください、だとか、いつまででいいって言っちゃいましたけど客先の事情が変わったのでちょっと早めてはもらえないでしょうかとか、そういうことを言って回らなければいけない。最悪の場合は、原料がないし原料作製機には別の原料が詰まってるしで、まずは原料作製機の掃除の日程から組んで行かなければいけなかったり。だいたいの係長はいい顔をしないし、暇なところほどあーだこーだ言ってくるから一番やりたくない仕事なのだけど。

さっきも中間検査で、突然形が違うのが入ってきたら見づらいだのお前らはいつも自分勝手だ、だの、そんな小言で20分くらい時間を食ってしまって疲れ果てた。もう何万回と言われた言葉だけど、自分勝手なのは私ではないんですけど。私はただのお遣いなんです。そもそも毎回同じことを言いながら結局やるなら、最初から何も言わずにやってくれたほうがよっぽど早く終わるんですけど。

あんまり意味がある仕事には思えない。

工場棟を上へ下へと動きまわって、最後に、だだっ広い部屋に電気炉がいっぱい置いてあるコーティング行程へ向かう。ここの係長はまぁ話が分かるほうだからさっさと終わらせちゃおう、そしたら今日は終わりだ。早く帰ろう。夕飯何にしようかな。と思いながら電気炉の脇をてくてく歩いていると、前方の電気炉の下に潜り込んでごそごそやっている白衣の怪しげな人物がいた。現場の人ではない。現場の人は白衣なんて着ないし。

そういえばここの電気炉は水素が充填されているから、間違って水素が漏れたり火がついたりすると爆発するし、爆発したら工場内に巡っている水素の配管に誘爆して工場全体が大爆発するって聞いたことがある。まさかテロリスト? 逃げようかと思ったけど、工場が大爆発したら事務所だってただじゃ済まない。どうしよう。

程なくして、白衣は手に持ったスパナを床に置き、もぞもぞと這い出してきた。じーっと眺めていると、ゆっくり這い出してきたその顔と思いっきり目があった。

「うわっ!」

驚いて声を上げようとした瞬間に、向こうに先に声を出されてしまった。こちらの声は行き場を失って、飲み込まれてしまう。

「まさかそんなところに人が立ってるとは思いませんでしたよ。脅かさないでください、川村さん」

ぴよん、と軽い身のこなしで立ち上がったその白衣は、顔も白衣も黒く汚れてはいるけれど、間違いなく皆川くんだった。作業帽をうしろ前逆にしてかぶっていた。

「何やってるの、こんなところで」

「何って、もちろん修理ですよ」傍らに置き去りにしていたスパナを手に取ってこっちに見せる。「電気炉の修理」

皆川くんは大股で工具棚に向かう。棚を開けてスパナを入れる。私はなんとなく着いていく。

「もう終わったの?」

「修理は終わりましたよ。あとは水素を入れてガスが漏れてないか見るだけ」

炉の前には大きな制御盤があって、いろいろなボタンと計器が付いている。

「営業に行ってまでこんな仕事するなんて思いませんでしたよ」

「これも営業の仕事なの?」

「そんなわけないでしょ。たまたま今日は直せるほど手慣れた人がいなかったからって呼ばれたんですよ。課長から、生産を助けるのも営業の仕事だ!とかなんとか言われて。連れてこられた」やー本当に人使いが荒い。と皆川くんは笑った。

話しながらも手慣れた手つきで制御盤のボタンを押して行く。ボタンを10個くらい押して、計器の数字がだんだん上がり始める。それを見つめる様子は真剣そのものだった。

「なんかそうやってると、本物のプロみたい」

「プロでしたよ。もう現役じゃないけど」そしてまたボタンをいくつか操作する。数字の上昇が止まる。「白衣着てたのに、作業着がもうこんなに汚れちゃいましたよ。せっかく営業の事務所に行くんだからって新しくしてもらったのに」

油汚れが目立つ作業着をひらひらとさせてから、皆川くんは検知器みたいなものを持って炉の下のスペースに再び潜り込む。

そしてごそごそと這いまわっている。こんなに汚れた床の上で仕事してたらそりゃ汚れる。しかも、こんなに大きな炉なのに下のメンテナンスのスペースはすごく狭い。

「なんか、狭くて動きづらそうだね」

「はい、狭いんです――いてっ」

バシイィンというすごい音がした。「どうしたの?大丈夫?」

「答えようと頷いたら配管に思いっきり頭ぶつけました」いててて、と頭をさする音が聞こえる。「でも、音だけはすごかったけど細い配管だったから大丈夫です」

やっていることはすごくプロっぽいのに、見ていてなんだか不安になってくる。本当に大丈夫なのだろうか。

程なくして皆川くんはそろそろと炉の下から出てくる。

「終わりました」

「……お疲れ様。大丈夫?」

「はい、帽子が守ってくれました」皆川くんは近くにいた作業員に一言・二言声をかける。そしてこちらのほうに向きなおると、「じゃあ休憩行きましょう、休憩」と言った。

「休憩?」係長席の真上の時計をちらりと見る。3時台のおやつ休憩の時間はとっくに過ぎていて、短針はどちらかというと4よりも5に近いところまで来ている。「もう休憩時間過ぎちゃったよ。」

「いいんですよ。どうせ今日は朝からずっと働きっぱなしで休憩時間なかったし。ずっと動いてたからジュースが飲みたいんです」

私はもう休憩取っちゃったよ、という言葉が喉まで出かかったけれど飲み込んだ。朝からずっと働きっぱなしで休憩時間なかったし。午前の分まで今休んだからと言って、誰が咎めるだろうか。
 動きっぱなしで、喉も乾いた。だから行こう。


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