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サンタクロースを待つ(短編)

サンタクロースを待つ(1/3)

 店内に流れていた曲が終わって、有線は次の曲を流し始める。

毎年この時期になると必ずどこかで一度は聞く曲。マライアキャリーの「All I want for Christmas is you」だ。

レジカウンターの中、「クリスマスソングだ」と呟くと、

「さっきのもそうだっただろ、クリスマスソングなんて今に始まったもんじゃない」とおにぎりの棚の下、着荷分のバーコードを読み取りながら澤村が言う。

「さっきの? なんかどこかで聞いたことはあったんだよなぁ。何だったかは忘れちゃったけど、サザンだろ? 全然クリスマス要素なかったぞ」

聞き間違えようもない桑田佳祐の声のバラード。ベルの音も鐘の音もしない曲のどこがクリスマスソングなんだよ。

ちょうどレジから真正面の位置に見える時計は23時を回っている。一時間前まではひっきりなしに来ていた客も今は途絶えて、交代直前のこの時間帯はお客もいない。だからやりたい放題、話したい放題のバイトになってしまう。

「えー、いや、何だったかは俺も覚えてないけど。でも確かに12月になるとよく聞くだろあの曲」

よく分からないけれど確かにそうだ。記憶を掘り起こそうとうんうん唸りながら考え込んでしまう男二人。

「ケンタッキーの曲じゃないの、ブルーヘブンって」

さっきまでパンのバーコードを読み取って棚に並べていた明子が、空になったバケットを抱えてレジに歩いてくる。小さな身体にふわりふわりとチョコレート色の髪を揺らしながら。

「おぉ! そうだケンタッキーの曲だ。絶対どこかで聞いたことあると思った」

ぽんと手を叩く澤村をちらりと一瞥して、明子はレジ裏の倉庫へバケットを運び込む。レジ裏のスペースは広くはない。ふわりと漂う花の香りに押し出されるように、避けてスペースを開ける。

「あの曲を聞くと、ケンタッキーの味を思い出しちゃってしょうがないんだよね。すごく食べたいんだけど」

ないの? と目で訴えかける明子に言う。「いや、ケンタッキーなんてここにはないでしょ。」

「普通のフライドチキンでもいい」

「30分前に売り切れました」

「じゃあから揚げ棒ですらいいんだけど」

「この時間にまでから揚げ棒が残っていたことが今だかつてあっただろうか」

「……じゃあ何が残ってるの」

「どうせいつもと同じ、肉まんとチャーシューまんだろ」

がっかりした様子の明子と、おにぎりを並べ終わって笑いながらバケットを置きに来る澤村。

「きょうはすごいぞ」俺は明子の問いに答える。「さらに、あんまんまで残ってる」

「せめてピザまんだったら良かったのに」あからさまに落胆した明子の声。「百歩譲って、ピザまんならばまだクリスマスだって拡大解釈できるのに」

「そんなに食べたきゃ先に買っときゃいいんだよ」

と明子に言うと、

「それは違うよ」と指をこっちに向けて反論した。「お金があれば何でもできるっていう価値観自体が問題なの。何が残るのか、私は神様に委ねてるんだよ。フライドチキンだって残るかもしれないじゃない。それが運命ならば」

「そして今日も残らなかった」澤村は最後の一つのバケットを運び込む。「運命ってのは、待ってたらそのうち向こうから来てくれるものなのか?」

「そういうこともあるかもしれない」俺は澤村に対して言った。

「そうよね、さすがテツ君、話が分かる」

笑顔で大きく頷いた明子に、俺は続けて言う。「神様はあんまんを選んだんだ、他でもない明子に対して」

ぶはは、と澤村が吹き出した。「いいなぁあんまん。15年は食べてないぞ。滅多に口にできないレアものだから心して食べろよ」

「今日はまだその運命の日じゃないんだよ」と明子がむくれて言ったところで、店長がバックヤードから出てきた。

「今日も楽しそうだなおい」と、大きな欠伸を押し殺そうともせずに言う。「おつかれー、もう時間だからとっととあがれー」

「お疲れっす、店長」と澤村がいち早く挨拶する。「今日はこいつらもらって行きます」

澤村が掲げたレジかごには、ショートケーキが三つ入っていた。

「ケーキなぁ。賞味期限がやたら短くてあんまり売れないんだよな。ちょっと発注絞るか」

かごの中の期限切れのショートケーキを見て、店長がうーんと唸る。

「いや、いいんじゃないですか? オレ、ケーキ好きなんで」

「なんか勘違いしているようだから教えてやるけど、お前にやるために仕入れているわけじゃないんだよ」
 店長は澤村をじろりと睨む。

「じゃあフライドチキン入れましょう」

「ピザまんも」

口々に仕入れのリクエストを伝え始める三人に、店長は「はいはい、さっさと帰りな、遅くなっちゃうぞ」と手で払いのける仕種をする。

お疲れ様でしたーと店長に挨拶をしてバックヤードへと移動する。

バックヤードは倉庫と休憩所と更衣室が合わさったようなスペースで、空調は効いているけれども箱やごみや荷物で雑然としている。

ぱたんとドアが閉まって、澤村が言った。「チキンもピザもないけど、ケーキならある。クリスマスを楽しもう」

いつもどおりの習慣で、俺は積み重なった段ボールの上に座る。明子は事務机の椅子に座り、澤村は弁当類が入っていた青バケットに座るとケーキの包装を解き始める。

キャスター付きの椅子に座った明子はくるりとこちらを振り返るなり、苦々しい顔で言う。
 「クリスマスなんて中止になればいいのよ」

バックヤードにも流れている有線のクリスマスソングは、いつの間にか山下達郎に変わっていた。

「何を突然言い出すんだよ」

と聞くと、

「違和感無さすぎて忘れてたけど、さっきここに入って来る時にそこの鏡で見えて思い出しちゃったのよ」明子はドアに貼り付けられた鏡を指差す。「このサンタ帽子」

あ、と男二人は間抜けな声を上げて頭の上を調べ出す。

「なんかクリスマスだって浮かれてる人みたいでバカみたいだっておもったんだよ。今すぐにでも、今日のお客さん全員に向かって叫びたい。これは私の真の姿ではないのです、って」

「クリスマス、そんなに嫌なのか?」

自分の頭のサンタ帽を手でばさりと払って、澤村が明子に聞く。そちらをちらりと見る。何か探るような視線だった。

「嫌よ。とても嫌」明子は首をぶるぶると振る。「ホワイトクリスマスの恐怖」

「ホワイトクリスマス?あれ?明子って北国出身だったっけ?」

と聞いた俺に、明子は心底分からないといった表情を見せる。

「静岡出身なんですけど。確か何度か言ったよね。静岡が北国なら、東京なんて北の果てだよ」そして思い出したように続ける。「まぁ確かに寒い」

「クリスマスに雪を怖がる奴なんて、俺は雪に埋もれる北海道人しか知らないぞ」

「ホワイトクリスマスって、以前言ってたあれか?」澤村が言った。「予定は未定、予定は白紙って」

「何だよそれ」

と訝る俺に、明子は机の上の鞄からがさがさと取り出したメモ帳を見せる。

「これよ」

「12月の予定帳」

「普段はこんなに忙しいの」示した12月前半の、びっしりと文字で埋め尽くされた日付欄。

「で、これが現在の予定」と細い指で示された12月後半の予定は、クリスマスを中心に前後3日が完全な白紙になっていた。「みんな友達よりも彼氏彼女を優先する。裏切り者の踏み絵なのよ。この日は」

「キリスト教徒でもないのに踏まされるなんて、現代の踏み絵って怖いな」澤村が笑う。

「だから私は働くのよ」22日から25日までを繋いで、でかでかと矢印を書く。そしてその下に、さらに大きな字で「バイト」と書いた。「裏切り者ばかりでも、一人でも生きて行けるように」

「キリスト教の神聖な日を己の欲望の言い訳に使う罪人たちの原罪を灌ぐために」

俺が言うと、

「何とでも言うがいいさ。明日からクリスマス本番、絶対に負けない」と、明子は澤村の差し出したショートケーキを掴む。慣れた手付きでくるくると包装を取って畳むと、そのままぱくりと口に含む。

俺も澤村も、同じように続く。

「なんかいつもよりも美味いな」

と俺が言うと、澤村も頷く。

「クリスマス効果だな」

気がつけば、有線の曲はジョンレノンのクリスマスソングに変わっていた。この世界に、クリスマスソングは何曲あるのだ。

「おいしい」明子も小さな声でつぶやいた。「ただ、いちごだけはいつもどおり。すっぱい」

「確かに酸っぱいな」澤村が言った。
 「でも、酸っぱいからケーキの甘さが際立って、これはこれで悪くない」俺は言った。ケーキは一瞬で食べ終えてしまった。
 「クリームはとっても濃厚だね。甘い」明子が指についた生クリームを舐め取りながら言う。
 「帽子、取らないのか?」いつまでも帽子を取らない明子が気になって聞く。すると、

「今はいいや」と言った。「この帽子、見た目によらず暖かいから」

そして明子は、くすぐったそうに笑った。

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