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サンタクロースを待つ(短編)

サンタクロースを待つ(2/3)

「寒いな」

と俺が言うと、澤村も頷いた。「あぁ、寒い」

いつも大学生たちでごった返しているコンビニ前の通りにも、さすがにこの時間になると人はほとんどいない。冬の空気が、守るものの無くなってしまった通りをびゅんびゅんと通り抜けていく。

コンビニの裏口の前で、着替えている明子が出てくるのを待っているところだった。事務所は更衣室も兼用になっているから、外で待たないといけない。明子はいつも着替えが遅い。何にそんなに時間をかけているのかわからないけれど、とにかくいつも待たされた。

イルミネーションというには小規模に過ぎる商店街のクリスマスの灯りも、今はもう殆ど消灯してしまっている。コンビニの向こうには街灯がぽつぽつとあるだけだ。

冷え始めた手をこすり合わせていると、「なぁ」と澤村が呟いた。

「ん? 何だ?」とそちらを見るけれども、澤村は地面をじっと見つめているだけだった。あまりにも小さな声だったので、空耳だったのだろうかと視線を外しかけたとき、ぽつりと澤村は呟いた。

「お前は明子のこと、どう思ってるんだ?」

「どう、って」いつも下らない冗談ばかり言っている澤村に、真面目に取り合ってもろくなことはない。しかし、その声は聞いたことがないくらいに真剣だった。俯いた顔は暗闇の中で、その表情は見えなかったけれど。

なんと答えればよいのか分からず、ただ黙ることしかできずにいると、澤村はこちらに顔を向けた。まさに決然と。

「オレは明子が好きだ」澤村のこんな顔は初めて見た。コップの淵で何とか踏みとどまっていた水の表面張力が瓦解したような。

それは、全くの予想外の出来事ではない。

バイト中も、休憩中も、帰りの道すがらでも。嫌でも目に入るから、漠然とした予感はあった。

「だから、オレは明日、明子に好きだって言う」

予感はあったけれど、意図的に目を背けていたのだ。まだ先延ばしにできるって、まだこのままでいられるって。

例え何かがあるとしても、それはまだまだ見えない遠い未来のことだと思っていた。

「だからお前に聞きたい」鋭い澤村の視線は、鈍い俺を射抜く。「お前も明子を好きだって言うならば抜け駆けはしたくないんだ。明子に好きだって言っても構わないな?」

俺はまだこの場に留まっていたかった。3人の、この暖かく凪いだ世界に。

でも多分、澤村はそれを許さない。ただ優しい柩にしがみ付くだけの、世界を切り開く努力さえしない俺を。

でも、俺はどうしたいのだろう?

返すべき言葉は、何度も浮かんでは消える。その間に信号は何度も赤と青を繰り返す。

何度目かに俺が口を開こうと息を吸い込んだとき、玄関の扉ががちゃりと開いた。

「お待たせー…ってあれ」

明子はお互いを見ながら特に何もしゃべっていない二人を見ると、首を傾げた。「どうしちゃったの」

「別に。ただ男どうしの話し合いをしてただけ」澤村が答えると、明子は笑った。

「何それ。なんかやらしい話?」

「あぁ。とっておきのやつだ」

「そうですか。邪魔だったら先に帰る」

歩き出した明子を横目に見て、澤村は小声で呟いた。

「即答出来ないくらいの気持ちなら、」そして明子を追って歩き始める。「オレは、明子に言う」

呆然とその後ろ姿を見送る。二人ぶんの影が近づいていき、同じ速度で歩き始める。

言おうと思えば言えたはずなのだ。

自分も明子のことが好きなのだと。でも言えなかったのだ。分からなかったから。

明子のほうが大事だったのか、

3人の、息が詰まりそうなほどに暖かい春みたいな世界のほうが大事だったのか。

それが分からなかったから。

だから多分、澤村の言うことは正しい。

所詮、明子に対する気持ちはそんなものだったのだ。

それならば、明子自身を見つめて、そして好きだと言い切れる澤村が明子を手にいれたほうが良いのではないか。

二人の影は今にも溶けて見えなくなりそうで、置いて行かれないようにと慌てて歩き出した。




「また今日もクリスマスソングばっかりだな」

有線はずっとクリスマスソングを流し続けている。ひっきりなしに続いていた客足がぽつりと途絶えて、手持ちぶさたに隣のレジに立つ明子に話しかける。

「コンビニにまでカップルで来なくてもいいじゃない、って思うんだよね、私は」

大学が冬休みに入ったからなのか、客層はいつもと明らかに違った。普段は誰もが急いでいるのに、今日は楽しそうだ。

「有線のチャンネルの変え方さえわかれば、今すぐにでも演歌チャンネルに変えてやるのに」

今、このコンビニには俺と明子の二人しかいなかった。今日明子に告白すると言っていた澤村は遅番シフトで、もうそろそろ来る頃だった。

昨日までは何とも思わずに過ごしていたこの怠惰な時間が、もうあと少しで決定的に変質してしまう。澤村の気持ちが通じたのだとしても、その逆だとしても。そう考えると、残り少ないこの時間がとても貴重なものに思えてしまう。どう過ごしていいのかよく分からなくなる。

「テツ君は、クリスマスって好き?」

BGMが『恋人がサンタクロース』に変わったころ、明子は言った。まるで歌うように。

「好きでも嫌いでもない」レジの真正面の壁にかかっている時計を眺めながら答えた。澤村がシフトに入るまであと30分くらい。「昔は好きだったけど、今はそれほど」

「何で変わっちゃったの?」

明子はいつも暇を持て余した時にするように、ふらふらとレジを出てレジカウンター越しの正面に立った。前かがみに、下から覗き込むように話してくる。

「昔はサンタが来たんだよ、俺のところにも」いつもだったら気にならないのに、明子と目を合わせるのが何故だか辛かった。「でも今は来ない」

「サンタクロース信じてるの?」明子は笑った。「なんかイメージと違ってかわいい」

もし。もし明子に気持ちを伝える瞬間があるのだとすれば、それは今しかない。澤村が嫌ったやり方で、俺はわだかまった気持ちを吐き出して楽になることができる。

「信じてるさ」

どっちにしてもこの狭い世界を失うことになるのであれば、そっちのほうが良いのではないだろうか。

「すっごい大きい靴下を飾って寝たりとか?」明子はからからと笑い、楽しんでいる。

そんな明子と視線を合わせることにさえ、いくらかの勇気が必要だった。

「サンタを信じるのとサンタを待つのとは違う」

俺もレジカウンターから出る。二人の間を隔てるものがなくなった今となっては、明子は手を伸ばさずとも届く位置にいる。両腕で捕えられる位置にいる。

背の低い明子は、上目使いにじっと俺を見ている。俺が次に何をしようとしているのか、すべてを見透かしたような視線。微動だにせずに、次の行動を待っているように思えた。

目の奥と奥が引き合ってぶつかって絡み合う。

「――あなたは、サンタを待たないの?」

その瞬間、二人は確かに繋がっていた。この世界とは違う、どこかもっと遠く深く暖かい場所で。

俺はすっと息を吸い込んだ。それは何かを言うためなのか、二人の距離をゼロにするためだったのかはわからないけれど、ただ、これで今の世界は消えてなくなるのだと確信して。

その瞬間、視界の端に何かが映った。見慣れた何かが。

そちらに一瞬だけ注意を引かれて、そしてそのまま動けなくなった。

澤村はコンビニのドア越しにこちらを見ていた。何の感情もなくただ観察しているようなその目と、目が合う。

その瞬間に世界の熱は霧散した。そしてそれはもう二度と戻ってこないのだと思った。

「サンタは良い子のところにしか来ないんだよ」すっかり遠くに行ってしまったような明子に向かって言いながら、ドアの外の澤村に入ってこいよと手招きする。「だから俺のところには来ないけど、明子のところには来るさ。必ず」

自動ドアが開いて、澤村が入ってくる。入店チャイムの電子音が鳴る。

澤村は二人に向かって笑いかける。それを見て俺も澤村に笑いかける。



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