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サンタクロースを待つ(短編)

サンタクロースを待つ(3/3)

遅番の澤村はまだこれから3時間残っているので、帰りは明子と二人だ。

いつものように裏口で待つ。今日はいつにも増して出てくるのが遅いけれども、待たなければいけない。手がかじかんで動かなくなってきた頃に、かちゃりと小さな音がして明子が出てきた。

「……お待たせ」

小さな蝶番の摩擦音にさえかき消されそうな明子の声。それに気づかないふりで俺は右手を上げる。

「おう。寒いから早く帰ろう」

明子が横に並ぶのを待たずに歩き始める。

コツコツコツと、二つの靴が地面を踏みしめる音がやけに大きく響く。背の低い明子は踏み出す一歩が小さいから、二つの足音は同じ周波数にならない。

明子は横に並ばずに一歩後ろを歩いている。付いてくる足音で、離れず同じ距離を歩いていることはわかるけれども。

「聞いてたんだね、テツ君は」

明子の声は小さいけれど、しんしんと冷えた冬の空気は糸電話みたいに張りつめていて、はっきりと心を震わせた。

「聞いてた。っていっても昨日だけど」

吐く息は白くわだかまって、じわじわと空気に溶けていく。そのうちに、二人は駅に向かって近道になる公園に向かって入っていく。

「サンタはプレゼントを置いてった。確かにテツ君が言ってた通りに」

ちゃら、と音がして、振り向くと明子は手にネックレスをぶら下げていた。暗い中で淡い桜色の煌めきは夜の闇さえ反射して輝いていた。

「ローズクオーツのネックレス」明子はちゃらちゃらと、弄ぶように手の中のネックレスを触っていた。

「高そうなもの買うなぁあいつも。時給何時間分だよ」

俺が言うと、明子は力無く笑った。「サンタはどうして、いつも頼んでないものばっかり持ってくるんだろう」

二人の距離をぴゅうと冷たい北風が吹きぬけて、歩く速度を速める。ぽつりぽつりと街灯がひそやかに照らす公園を奥へ奥へと進んでいく。

不意に明子が、「あ。あれ」と向こう側を指差して小走りに駆けて行く。その先には噴水があった。

「なにこれ。すっごい地味なイルミネーション」

噴水はイルミネーションで飾りつけられていた。光を掬い取ろうとするみたいに、明子は手を差し伸ばしている。

暗 い公園の中でそこだけがぽっかりと浮かびあがっていたけれど、昼光色のLEDを繋いで輪っかにしただけといった風情のイルミネーションはお世辞にもきれい とは言えず、少し気の利いた個人宅のイルミネーションのほうが美しさも光量も上なくらいだった。中途半端な明かりが逆に公園全体の暗さを強調しているよう にさえ見えた。

「こんなの昨日までは無かったよな」

俺が聞くと、明子も頷いた。「なんか、近所のおじさんが余った電気で適当に日曜大工しましたって感じ」

「せっかくのクリスマスイブに、唯一見たイルミネーションがこれでいいのだろうか」

「いいんじゃない? クリスマスにみんながみんなロマンチックなわけじゃないよ」と言って明子は笑った。笑いすぎてごほごほと咳込んでいた。

「……え。大丈夫か」

「うん、ごめん。ありがとう。ちょっと冷たい空気にむせちゃって」明子は誤魔化すように、頬をぽりぽりと掻いた。「なんか、サンタから昔もらったプレゼントのことを思い出しちゃったんだ」

「なんだよ。明子だってサンタからプレゼントもらってたんじゃないか」夕方にサンタのことで笑っていた明子を思い出して指摘する。

「そうなのよ。うん。でもさ、サンタからのプレゼントって欲しいものもらえたためしがないんだよ。特撮ヒーローの合体ロボ下さいって言ったのにセーラームーンの変身ブローチくれたりだとか。ビーダマン下さいって言ったのにたまごっちになったりだとか」

「一般的な感覚からすると、それはサンタのほうが正しいな」

俺が言うと明子は笑う。楽しそうな笑顔。

「セーラームーンは見てみたら面白かったし、たまごっちもやってみたら楽しかった。うまく育てられなかったけれど。」明子は手に持ったままのネックレスを見つめる。「ただ、やっぱり最初は思っちゃうんだよね。私はこんなの欲しくないって」

私には淡い桜色なんて似合わないのに、と言った明子は俯き加減で、その本当の表情は見えなかったけれど。

多分その瞳は光を反射して桜色なのだろう。

「せっかくサンタがくれたんだから、」本当は、明子の背中を押すような真似はしたくない。けれども明子には笑っていてほしかった。誰のもとに行こうと、たまに俺に向かって笑いかけてくれるならばそれで良かった。「大事にしなきゃダメだぞ」

「うん」明子は鼻をすすった。「テツ君のところにもサンタが来ればいいのに」

ローズクオーツはきらきらと光っている。真っ暗な夜の中からわずかな光を探し出して、小さな身はきらりきらりと燃えるように輝く。それは陳腐なイルミネーションよりもずっと明るい。その光を撫でる両手、夜でも目立つチョコレート色の髪。眩しいくらいだ。

「サンタなんて待たない」俺は言う。明子に向かって宣言する。「俺は強くなるんだ。サンタクロースなんて来なくても、一人で生きられるように」

「サンタは来るよ。いい子のところに来るんだから」明子はローズクオーツをコートのポケットに入れて、俺を正面から見つめた。「君は、じつにいい子だ」

吹いてくる風はとても冷たく、乾いているから。鼻をすすらなくてはいけない。もしかしたら風邪なのかもしれない。

サンタの前に、私からプレゼントあげる。

明子の言葉にどきりとしたけれど、カバンから取り出したのはコンビニの袋だった。

「……フライドチキン?」受け取ってよくよく見てみると、それはバイトしているコンビニのフライドチキンだった。「クリスマスにフライドチキンなんて、よく残ってたな」

「違うよ、これはあらかじめ買っておいたんだ」プレゼントと言いながら、明子もその袋から一本を取り出して自分のものにする。「神様に運命を委ねて待つのはもうやめました。そんなのはもう終わり」

2本のフライドチキンを、二人で一本ずつ。

「澤村も食べたがりそうだな。言ったら怒るぞ多分」

「いいのよ、サンタはチキンなんて食べない」そして明子はフライドチキンを大事そうに見つめる。「二人でクリスマスを祝おう」

二人で、向かい合わせで立ちながらフライドチキンにかぶりつく。多分、クリスマスってもっと穏やかで暖かで行儀のよいものだけど。

それでも、フライドチキンはまだ温かかった。

「もう今年も終わりだな」

フライドチキンを食べ終えて、俺は言う。

「うん。クリスマスが終わったら一気に終わって行っちゃう」

「来年も、一緒にいられたらいいな」

「私もそう思う」

相変わらず、目の前のイルミネーションは虚空に向かって平坦な光を放っている。ぼんやりとした、弱々しい光。でも不思議なもので、それに慣れてしまった今となっては暗い帰り道へ一歩踏み出すことさえ躊躇してしまう。

このままここに留まっていたい。けれども、いつまでもいられるような場所ではない。明日の夜にもこのイルミネーションが残っているという保証さえない。

「一個言い忘れてた」

明子が、ぽん、と手を叩く。

「ん?何?」

と聞く。俺と明子は見つめあう形になる。

メリークリスマス。

明子のその言葉が冬の空気を震わせた。

「メリークリスマス。そしてハッピーニューイヤー」

俺がそう言うと、明子も笑って言った。

「ハッピーニューイヤー」

来年もよろしく。

その言葉を皮切りに俺たちは歩き出す。暗くてよく見えない帰り道へ。



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