ノートの切れ端


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1.2 - 社員食堂のタコライス(2)

「実際どうなの? 彼、あなたに気がありそうな感じにしか見えないけど。本人の目から見て」リエは、一度始めた話題をなかなかやめようとはしない。

「分からないよ。だって喋ったことないし」喋ったのは一回だけ。名前を知って随分経ってから、書類を私に届けに来たときにちょっとだけ。「でも、私に好意を持ってくれる人がいるならばすごい嬉しいと思うよ。私もまだまだ捨てたもんじゃないなぁって思える」それはかなり切実な問題。

「もうちょっと積極的に行ってくれたほうが、見てて面白いんだけどなぁ」リエは完全に楽しんでいる。「でもまぁ、これからは距離がぐーんと縮まるんだから、ちょっと期待してるけど」

「距離が縮まる? なんで?」言っていることが分からなくて、リエの目を覗きこんでしまう。

「あれ? あなたイントラ見なかったの?」

「イントラ? そういえば朝から何も見てなかったなぁ」

「人事異動通知が出てたのよ。驚きの、そして期待の辞令」

タコライスを口へ運ぶふりをしながら、リエの次の言葉を待つ。どんな辞令があったのだろう?

「聞きたい?」

「いや、別に……」

「皆川くんが管理部営業課に異動になったのよ」私の声には耳を貸さず、こともなげにリエは言う。「私たちと同じ部署に」

「異動? あの人って開発じゃなかったの?」

「そこまで知らないよ。」リエは余裕たっぷりに笑う。「気になるなら自分で聞いてみればいいじゃない」

「……ふーん」

スプーンですくったまま残っていたタコライスをぱくりと口へ。やっぱりおいしい。トマトは甘くてジューシィで、次へ次へと期待感をあおってくる食べ物なのだ。

「まぁ期待してるから」

「何にですか」

ため息交じりに私は言う。にこにこと妙に機嫌のいいリエに、私は少しずつ疲れ始めてくる。残念ながら、リエが期待しているような展開にならないのは目に見えている。

「まぁそれはそうと」リエは姿勢を直すと、一緒に買っていたらしい野菜ジュースにストローを差し込む。「千佳子さんはそろそろ出るの?」

「うん。昼休みが終わったら出るよ」左腕にはめたピエールラニエの腕時計をちらりと見る。軽くて小さくて使いやすいからずっと愛用している。「そして終わったら直帰。今日は制服持って帰れないや」

「いいなぁ。週末に出張直帰、そのまま彼氏とデート。私もそんな女子力の高い仕事がしたいものだなぁ」

野菜ジュースに挿したストローをじっと見ながら、リエが言う。

私はこれから丸の内まで、月に一回の、出張という名の取引先回りをしてこなければいけないのだ。電車に乗って1時間かけて。本当に時間と電車代をかける意味がある仕事なのかは良く分からないけれど。

「デートってほどのものではないよ。時間ないからごはん食べるだけだし。仕事は結構めんどくさいし」

「いつものセクハラ部長」リエは笑った。

「あの会社さえなければ、会社回りして4時には終わるおいしい仕事ですごちそうさま、くらいは言えるんだけど。」

「それも含めて女子力だよ」リエは下唇に人差し指を当てて、考えるような仕種を見せる。左腕のクロスシーの時計は、手首が細いから良く似合う。「セクハラ部長とどうやって折り合いをつけるのか」

「そういう能力がほしいです。リエはそういうところ、うまいからなぁ。」いくら仕事だと言われても、イヤなものはイヤだ。

「どんなセクハラ部長がいようが、出張直帰で彼氏とデートできる仕事だったらいつでも引き継ぐ準備はできてるから。代わりたかったら言ってね。」

「リエって彼氏いたっけ」

「それも含めて引き継ぐからいいのよ」

「じゃあ渡さないよ」

「そうかぁ、残念。」リエは小首を傾げて笑った。「ほしかったら力づくで奪うしかないのかなぁ」

「いやいやそれは」

冗談であっても、リエのような人にそんなことを言われるのは怖い。

私は絶対に勝てないから。

食堂につけっぱなしのテレビからは、NHKの連続テレビ小説のオープニング曲が流れ始める。私たちはそれを機に立ち上がる。

「とりあえず、原田君によろしくって言っといてね。」うどんのトレイを持ちながら、リエは前を歩く。

「うん。言っておく。」

「そのうち毎月丸の内に行くのは私になるかもしれないから、心の準備よろしく、って。」

「や、渡さないから。」

リエの後に着いて歩き出すと、最近愛用しているというホワイトローズの香水がふわりと香る。

出口のほうを見ると、窓の向こう、横須賀の海が遠くに見えた。ずっと遠くまで、見渡す限り何もない。

私にはそれが、とてもうらやましい。


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