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サニーサイドアップ

サニーサイドアップ - 2

 動物園は、坂をずっと登っていった先にある。見上げた坂のその上には太陽が輝きを増しながらぐるぐると自転するように熱をあちらこちらに散らしていて眩しい。家族連れに紛れながら坂を登っていくあなたを、手で直射日光を避けながら半歩後ろから眺める。

 あなたの歩幅はとても大きいから、遅れないようにと急ぎ足になる。その背中は一心に上を目指しているようで、太陽に向かって歩いて行くように見えた。

「もう少しゆっくり歩いてよ、さすがにちょっと速すぎる」

 追いつけずだんだん遠くなっていく背中に向かって言うと、あなたは振り返る。ちょっとだけスピードを緩めながら、それでもやはりまだ速い。

「俺が速いんじゃなくてお前が遅いんだよ。そんな歩きにくそうな靴履いてるから」

 あなたが指差したのは、この前買ってきたばかりのオレンジ色のショートブーツ。確かにほんの少しだけヒールは高いけれど、こんな日なんだからちょっとくらい春っぽい靴を履いたっていいじゃないか。

「靴のせいじゃないよ。だいたい、お弁当だって持ってるんだもん。重い分だけ遅くもなるよ」

 右手のバスケットを見せつけるように空にかざす。あなたが食べたがっていたサンドイッチなんだから、少しくらい気を使ってよ。

 私のその抗議にあなたは笑う。苦笑みたいなその表情が気に入らない。

「だから持つって言ったじゃないか。重いのなんて分かりきってるから」あなたはわざわざ私の隣まで降りてきて右手を差し出す。「今からでも持つから、早く貸せ」

 でも絶対にあなたにはこれを渡さない。伸ばされた手から守るように、バスケットを抱きかかえる。「ダメだよ。これは私が持たないといけない物なの」

「なんだよそれ」と、あなたはまた苦笑いみたいな表情で、先に歩いて行ってしまう。どこへ行くの、私はそのうしろ姿を見送りながら、それでも坂を上へと向かって歩き続ける。頑張ってもペースはこれ以上は上がらない。

 そのうちに歩いて戻ってくるあなたは、手にピンク色のアイスキャンデーの棒を二本持っていた。

「食うか? 今日は暑いくらいだから、多分おいしいと思うけど」

「まだ夏じゃないよ。春にさえなってないのに」でもあなたの大きな手からその一本を受け取る。

 山の上にある市営の動物園はあまり広くないけれど、近所のこども達で土日はいつも賑やか。だから休日には焼きそばとかフランクフルトとかいろいろな出店が出ていて、私は特に夏期限定のアイスキャンデーが好きだった。毎年春が終わる頃に出てきて、秋が始まる前にいなくなる。私が生まれる前からずっと、同じお爺さんが同じサイクルを繰り返していた。

「さっきお前が言ってたことが本当なら」と、あなたはアイスキャンデーを口に咥えて言う。「別に、春の前に夏が来たって問題はないだろ」

 テストが解けたら夏になるなら、と。あなたのその視線は私のほうを見ている。でも多分、見ているのは私ではなくて、その向こうに広がる空だ。だから、どんなに頑張ったってあなたと私の目は合わない。

「あのお爺さん、もう一年も見てなかったんだなぁ。ちょっと見たかった。」

「去年と何も変わってなかったぞ。何も特別なことなんてない。来年だって再来年だって見られるじゃないか」

「それはそうだけれど」

 あなたの言葉は確かに正しくて、何も言い返せないからあなたの真似をしてアイスキャンデーを口に咥える。

 黄色はレモンで緑はメロン。ピンクは甘酸っぱくて、多分いちご味。だけどいちごの季節は初夏だ。まだいちごには早すぎる。

「なぁ、ひとつ思ったんだけど」あなたは右手に持ったアイスキャンデーの棒を眺めている。「雪が解けたら春になるっていうんだったら、アイスキャンデーが解けても春になるのか?」

 ピンク色のしずくがとろりとアイスの表面を伝って、私は慌てて舐め取る。

「アイスキャンデーは冬の食べ物でも、春の食べ物でもないよ」そう言いながらがりりと先端をかじる。「だから、解けたって何にもなりません」

 解ける前に食べきってしまうから、私には関係ない。

 最近はこのアイスを食べるたびに思うのだ。この安っぽい味はまるで、飲み終わったフレッシュジュースのグラスに残った氷を口に運んではがりがりと砕くような味だと。さらさらとこぼれていく時間の残滓を両手で握りしめるような私は、子供の頃から変わらないこの味が羨ましいからぎゅっとしがみつく。だって世界は、望もうが望むまいがいつの間にか変わってしまうから。
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