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サニーサイドアップ

サニーサイドアップ - 3

 この動物園はあまりに狭いから、動物たちは見慣れたころに他の動物園に引き取られていってしまうということがよくある。保護した動物なら怪我が治ったり、生まれた子供は大きくなったり。

 例えばライオン。あなたと初めてこの動物園に来たころに生まれた赤ちゃんは、大きくなりすぎて住む場所が手狭になってしまった。だからもっと大きな動物園に連れられて行ってしまうのだと立て看板に書いてあった。

 確かに狭そうだった。自分の背丈の3倍くらいしかない檻の中をぐるぐると回っては、飽きてしまったかのように寝転んであくびをする。

 ライオンが連れて行かれる先は、聞いたこともない場所にある聞いたこともない動物園だった。

「連れて行っちゃうのは仕方ないけど、ちょっと遠すぎるよ」

「でも仕方ない。大きくなり過ぎたから、この檻はこいつには狭すぎる」

 あなたは檻を掴む。そんなに狭いんだったらそのままこの檻を壊してくれればいいのにと思う。

「それはそうだけど。そんな遠くに連れて行かなくても、近場でもいいじゃない」

「距離なんて関係ないさ」呟いた私に、あなたは言う。「近くても遠くても、その気があれば会いに行けるし無ければ一生見られない」

 何か言い返してやろうかと思ったけれど、思い返してやめた。残りの時間は少ないから。

 その金色のたてがみは、いちばん高いところまで上った太陽の光をいっぱいに集めて、それ自体がひとつの太陽のように見えた。暖かくて眩しい。その姿を忘れないように、じっと目に焼き付けようとする。

 このまま本当に焼き付いて剥がれなくなってしまえば良いのに。そうすれば、その姿を永久に眺め続けることができるのだ。

「そろそろ昼ごはん食べようか」あなたは左腕の時計に目をやる。それは今日初めての行動で、私が絶対に見たくなかった行動だ。

「……電車の時間?」でも私も時計を見てしまう。

「新幹線のチケットはもう買ってある」あなたは頷く。「あとは上野駅までの一時間弱だ」

 まだだ。まだ日が傾くまでには随分余裕がある。だからこの暖かな冬の最後の一日は、まだ続くのだ。

 けれども、流れゆく時間に棹を差して縋るような情けない真似はしたくなくて、

「ふーん」

 と気の無い相槌だけを打つ。

 芝生なんてそこらじゅうにあるから、お弁当はどこでだって食べられる。ビニールシートを敷いてバスケットを開くだけだ。

「今日はいつもと卵を変えてみたんだよ」

 バスケットの中から取り出したハムエッグサンドの断面を見せつけるように、ゆっくりと時間をかけてあなたに渡す。

「たまごサラダのサンドイッチじゃないんだな。目玉焼きだ」

 そう言ったあなたが大きな口でかぶりつくのを見てから、私もひとつを手に取る。たまごの香ばしさはハムととてもよく合う。

「布教だよ」きらきらとサンドイッチの向こうにあなたを透かし見る。「あなたも、両面こんがりのターンオーバーを一度くらいは食べておいたほうがいいと思って。この良さを知らないまま行っちゃうのはあまりにも損だよ」

もぐもぐと、ゆっくりと時間をかけてあなたはターンオーバーの目玉焼きを食べる。そして、おぉと声を上げる。

「うん。これはこれで確かにおいしい」

「でしょ? 私のおススメなんだから」

「どことなく、マックの月見バーガーを思わせる味だったけどな」

「それは秋でしょ。今の時期だったら、多分たまごバーガーって名前になってると思うよ」

 私はあなたの膝枕を使ってごろんと横になる。日差しがとても暖かくて、今にも寝られそうなのだ。右手を前に出して太陽を透かし見る。とても眩しい。この季節はそこらじゅうに太陽があふれているみたいに見える。

 芝生の暖かさが気持ちよくて、ビニールシートはこれができるからいいなぁって思いながらあなたの膝の上でごろごろと転がる。端まで転がったところで、あなたの履いたスニーカーの靴ひもの赤が芝生によく映えているのを見つける。

「あれ、靴ひもが解けてる。」

 結びなおそうか? と聞くと、

「サイズが小っちゃくなっちゃったんだよなぁ。」と、あなたは首を振る。「だから歩いてるとすぐに解けるんだよ。もうそろそろ限界っぽいから後でどこかで新しいやつを買う」

「ふーん。まだあなたの足のサイズは大きくなるのね」

 私はあなたの言葉を無視してその赤い靴ひもを結びなおす。ごろんと横になったままだから少し体勢がきつくて、腕がつりそうになりながら。

 仰向けになると、あなたを透かして空が見える。切ったほうがいいってずっと言ってるのに伸びたままになってしまっているあなたの髪は金色に輝いている。

「向こうは、とても広いんだ」

 だからお前も頑張れ。あなたはそう言った。私の頭にぽんと置かれた手はとても暖かくて、仰向けになった私はこんなにも間近に太陽を感じている。

「向こうに着いたらメールするから待ってろ」

「うん。向こうのこと、いっぱい教えて」

 あたたかい。これは絶対に眠れる。寝てやる。起こされたって起きてやらない。

 寝返りを打った私の目の前で、あなたの真っ赤な靴ひもはもう解けている。それを見て私はようやく気付いた。

 そうか。あと少しなんだ。

 あと少しで春が来るんだ。



(サニーサイドアップ・終わり)


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#5[2014/02/15 15:32]     














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